日本における先史時代、旧石器・縄文・弥生・古墳時代の考古学においては、自然遺物の分析など、純粋な考古学的方法のみでは解決できない問題が多くなってきています。例えば、墓から検証可能性の高い社会構造を読み取る、動物の家畜化、植物の栽培農耕化過程の復元、遺跡の古環境の復元といった問題は、理化学的分析を行わない限り、蓋然性の高い研究成果を引き出すことができなくなっています。このような現状は、考古学の研究・教育共にもはや従来の文系学問領域だけではカバーできなくなっていることを示しています。そこで、考古学と自然科学を融合させた総合知としての新たな学問的枠組みの創成・構築が必要であり、このようなハイブリッドな研究に対応できる研究者の養成が急務なのです。
 また、従来の考古学と自然科学の共同研究は、考古学と人類学、考古学と植物学などのように個別に分かれてしまう事例が多く、各種同位体分析やDNA分析までを統合して研究を進めることは、日本ではあまり行われてきませんでした。
 そこで本領域研究では、考古学を基軸として、人骨・動植物などの資料を統合して研究を行う領域、integrative bioarchaeology、統合生物考古学の創成を提唱したいと思います。

 本領域研究における研究組織の構成は大きく、研究全体を総括する総括班(班統括:山田康弘)、その下に分析方法の創出および精緻化・普遍化を担いつつ先史人類の社会を復元するA班(班統括:山田康弘)、日本列島域への人類への渡来と拡散、地域性の顕在化過程を研究するB班(班統括:木村亮介)、人類と環境(古環境・動物相・植物相)の相互関係を研究し、人類社会の復元にフィードバックを行うC班(班統括:長田直樹)が置かれ、全体で四つの大班に分かれています。

  総括班:全体の総括・調整
  A班:日本列島域における先史人類社会の分析
  B班:日本列島域における先史人類の拡散と地域性の形成
  C班:日本列島域における古環境の形成と先史人類の適応

 また、A・B・C三つの班の中には、それぞれ役割分担に応じた形で、かつ文理融合を目指した合計11の計画研究班が存在しています。
 本研究領域では、研究内容における過度の細分化を避けるために、また各班間相互において研究者の交流を深め、研究内容の統合を行うために、A・B・Cの各班の間には研究テーマを共有させ、研究を推進させることで、相互交流を促す仕組みを設定しています。各班の間における共有研究テーマは以下の通りです。
  A班⇔B班:先史人類の地域性発生過程の解明
  A班⇔C班:先史人類の複雑化過程の解明
  B班⇔C班:先史人類の環境適応過程の解明