宮路 淳子
研究代表者
奈良女子大学・人文科学系・教授
研究概要
本研究では、水産資源の安定的獲得が可能となった縄文時代早期以降の貝塚を伴う集落遺跡において、旧石器時代とは異なる居住パターンが始まり、動物との関わりにも変化が生じる機会を得ていたものの、飼養へは至らなかった様相を感染症発生と関連づけて学際的に検討します。対象とする時代は主として縄文・弥生時代です。本研究では、動物考古学、人類学、古代プロテオミクス、古代DNA、同位体分析との共同研究によって、世界の他地域に比べて約1万年も遅れた日本列島における動物飼養化プロセスの特異性の理解に繋げたいと考えます。
本研究は、これまでの研究では認知できなかった急性の致死性感染症を、①イノシシ属の考古学的出土状況と動物考古学的分析(年齢、食性ほか)、②同遺跡・貝塚から出土する動物遺存体と人骨からの感染症の痕跡(ウイルス、細菌等)の検出という、全く新しい二つのアプローチにより理解を試みるものです。縄文・弥生時代の集落・貝塚から出土したイノシシ属について、自己家畜化という視点を重視します。縄文時代以降、ヒトの集住度が増加することによって集落周辺に廃棄される生活残渣を求めて野生動物が採餌目的で寄ってきた可能性は高く、片利共生の関係性が生じていたのではないかと考えます。
ヒトとの物理的距離を縮めてきた野生動物によって、集落構成員に何らかの不利益が生じた可能性を考えることによって、先史時代日本列島において動物飼養が積極的に採用されなかった関係を明らかにすることを目指します。