◯神澤秀明(国立科学博物館)・中村耕作(国立歴史民俗博物館)・清家 章(岡山大学)・濵田竜彦(明治大学)・米元史織(九州大学)・安達 登(山梨大学)・角田恒雄(山梨大学)・藤尾慎一郎(国立歴史民俗博物館)・吉岡卓真(さいたま市教育委員会)・福永将大(九州大学)・西村広経(松戸市立博物館)・渡辺幸奈(京都大学)
1.2023年度総括
B04班は、自然人類学(古代人ゲノム・形態)および考古学(遺構・遺物)の分野の手法を駆使して、縄文〜古墳時代における集団形成過程および地域間ネットワークを総合的に理解することで、日本列島の先史時代人の人類史を解明することを目的としている。本年度は初年度であることから、それぞれ試料借用や研究に必要な基礎データの収集を中心に進めた。詳細は以下に示す。また、オンラインによる班会議を3回実施し、お互いの進捗を共有した。
2.ゲノム分析進捗(神澤・安達・角田)
本年度は、新学術領域研究ヤポネシアゲノムから継続の古人骨のゲノム分析を多く手がけた。また新規に縄文時代〜古墳時代の人骨、合計49点からゲノム分析のためのサンプリングを実施した。これらの半数ほどですでにDNA実験に着手しており、一部はAPLP分析や全ゲノムシークエンスまで完了している。
古人骨から抽出したDNAの大半は土壌のバクテリア由来で、人骨由来のヒトDNAが占める割合はごく一部である。そのため古代人ゲノム分析では、ターゲットエンリッチメントにより、ヒトDNAを濃縮することで効率的に配列情報を取得している。今年度は、これまで使用してきたメーカー(Daicel Arbor Biosciences社)のターゲットエンリッチメントキットが突如廃盤となったことから、Twist Bioscience社へ急遽、移行する必要が生じた。そのため、当初の実験スケジュールを5ヶ月ほど延長する必要が生じたことから、シークエンスの外注費110万円を来年度に繰り越した。来年度は、すでに借用した試料のゲノム分析まで進めると共に、新規試料の借用を行う。また、同位体分析の必要な試料については、A03班と連携して進める。
3.縄文時代の地域性の検討(中村・吉岡・福永・西村・渡辺)
縄文時代の地域性については、土器その他の分布範囲をもとに検討されていたが、研究の進展に伴い、中心域での状況は細かく分かってきたものの、周辺域の状況は不明瞭なままな部分が多い。例えば、後期中葉は、従来「加曽利B式」として大きな分布範囲が示されてきたが、実際には前半は関西方面と、後半は東北方面とのつながりが強いことが明らかにされているものの、中部地方や南東北地方などの境界域についての研究は不十分である。特に中部地方は、西日本と東日本の境でもあり、人骨・遺伝的データと考古学的文化情報との間の関係を検討することが必要となるが、本研究では、こうした状況に対して、日常用土器に代表される小地域の動向と、儀礼用土器に代表される広域の地域間ネットワークの動向の双方から東日本側・西日本側の研究者が共同で検討を進める。
本年度は、注口土器を中心とした後・晩期の儀礼用土器の集成を行い、東関東および西日本を概ね終了した。また、これまでの重要な未図化資料の図化・報告にむけての調査を継続して進めた。来年度も集成・調査を継続して行う予定でおり、科研期間内に資料集刊行・歴博データベース公開を目指す。また、2024年10月5日には、研究協力者である松戸市立博物館の西村氏が企画した儀礼用土器に関する展示にあわせたシンポジウムで中村および研究協力者各位が登壇予定である。
4.関門地域から山陰地方における弥生時代資料調査(濵田)
関門地域から山陰地方における弥生時代の広域ネットワークを解明するために、(1)弥生時代開始期における地域間交流、および(2)弥生時代中期以降の広域ネットワークを検討する。
(1)について、本年度は下関市、米子市の土器を対象とし(左図)、土器付着種実圧痕土器付着炭化物を分析試料とした炭素14年代測定、および炭素窒素安定同位体比による食性分析を実施し、成果が出つつある。来年度以降はそれを踏まえ、縄文系突帯紋土器と遠賀川式土器の共伴関係を整理し、縄文系と渡来系の集団がどのように混交したのかを深めつつ、穀物がどのように東へ移動したのかを検討していく予定である。(2)についてはそれほど進捗は無いが、本年度は、県が実施の青谷上寺地遺跡第20次発掘調査によって人骨が増加したことから、今後、検討を進める。また、これまでに出土した考古資料の調査から、青谷上寺地遺跡には多方面から人や物が集まっていたことが指摘されている。来年度以降は、青谷上寺地遺跡を核にして、非在地系の遺物のあり方を再検討し、ゲノムの情報とリンクさせて整理を行う。
5.九州大学所蔵人骨のデータベース化・いわゆる渡来形質の再検討(米元)
九州大学総合研究博物館および比較社会科研究部所蔵の弥生時代人骨の再整理と再検討、データベース化、3D化を進めている。来年度は、特に顔面部形質に着目し、DNA分析が進み、成果が出つつある大友遺跡出土人骨と他の北部九州集団の比較解析を実施する予定である。広田遺跡は、ゲノム分析のために、下層古段階、下層新段階、上層の3つの段階区分のそれぞれからサンプリングを実施している。下層古段階から下層新段階に入ると、異なるストロンチウム同位体比を持つ個体群が出現し、これまでの値を示す個体群は観察されなくなることから、周辺地域との交流が考えられるので、今後追加で検討を行う。また、上層人骨はこれまでほとんど検討されていないことから、来年度以降、検討を進める。
6.古墳時代における太平洋沿岸の埋葬属性の調査(清家)
古墳時代について、ヤポネシアゲノムでは畿内・中国・四国・九州の古墳人骨を収集し、DNAの分析とあわせて、埋葬属性の検討を行った。統合生物考古学では、この研究をさらに東海・中部で進める。とくに太平洋沿岸の埋葬属性を調査し、海浜部集団がもつ独自のネットワークをゲノム分析と合わせて明らかにする。本年度は、静岡県の古墳時代後期~終末期横穴墓(宇藤横穴、天王ヶ谷横穴)から出土した人骨について、ゲノム分析用にサンプリングした。現在は、安達がDNA実験を進めている。来年度は、四国の弥生〜古墳時代、畿内の弥生時代、東海の古墳時代人骨のゲノム分析を行うために、調整を進める計画である。