〇太田博樹(東京大学)・中伊津美(東京大学)・和久大介(東京農業大学)・覚張隆史(金沢大学)・近藤 修(東京大学)・水嶋崇一郎(聖マリアンナ医科大学)

研究の目的

 A02班は、代表者の私(太田博樹)と分担者の中伊津美(東京大)、協力者の和久大介(東京農大)、覚張隆史(金沢大)、近藤修(東京大)、水嶋崇一郎(聖マリアンナ医科大)によって構成されている。本全体会議(事務局注:於ホテルグランヴィア京都、2024年3月)では、代表者である私の研究室で進めているプロジェクトについて紹介する。
 私の研究室では古代ゲノム解析を進めている。その分析対象は、古人骨、糞石、古代土壌などである。研究の歴史は、古人骨を対象としたゲノム解析が最も古く、国際的にもノウハウとデータが十分に蓄積している。一方、糞石や古代土壌のゲノムの分析対象としての歴史は短く、DNA抽出法からin silico解析法まで開発途上にある。
 古人骨からのDNA抽出法は確立しているため、DNAが完全に残っていない検体を除けば、かなり安定的に結果を得ることができる。古人骨を分析対象とする場合、研究テーマは(1)人口動態解析と(2)血縁解析の2つに大きく分類できる。ここで、集団の系統や移住パターンや自然選択の検出などは、広い意味で(1)に含めている。系統解析や人口動態解析は、集団遺伝学の古典的な理論をもちいることが容易で、解析法も確立している。一方、血縁解析はダメージを受けた古代DNAの場合、国際的にもいまだデータ解析の手法が比較的不安定であり、解析プログラムは出回っているものの、使い方によっては不正確な結果を導き出してしまうのが現在の大きな課題である。
 糞石を対象とする研究とは、(3)摂食物同定を目指すものと(4)古病原体同定を目指すものの2つに大別できる。(4)は広い意味で古衛生学的データを目指すものである。糞石にはDNAが残っていて、そのDNAとは糞便をした本人のDNAの他に摂食物や腸内細菌やウイルスのDNAを含んでいる。これらが混ざった状態で得られるゲノム情報から、それぞれの生物種に固有の塩基配列を検索し、分類する作業はコンピュータの中で行うが、現時点では、このコンピュータによる解析(in silico解析)が解決すべき課題をより多く含んでいる。
 同様に、古代土壌DNAでもin silico解析の課題を多く保持してしまっていることには違いはないが、それ以上に、得られる古代DNAの絶対量が圧倒的に少ない点が課題となっている。ただ、古代土壌からのDNAを分析する確固たる道筋を立てることができれば、(5)古環境の復元や(6)古人骨がみつからない遺跡でのヒトDNA分析を実現できる可能性を秘めている。私たちの研究グループでは、A02班の他のメンバーとの協同を進め、これら多くの課題に取り組む。