◯山田康弘(東京都立大学)・青野友哉(東北芸術工科大学)・日高 慎(東京学芸大学)・舟橋京子(九州大学)・辻田淳一郎(九州大学)

1.研究の目的と方向性

 A01班は、考古学的方法によって先史人類の社会構造について研究を行い、人類学的な手法によって検証すべき仮説を提示する役割を担っている。具体的には、各地の先史時代の遺跡における墓地・墓域において、考古学的な観点からこれまで家族や世帯の埋葬地点と目されてきた墓群や、階層性を示すと思われる墓群および特定個人を抽出し、考古学的な埋葬属性(埋葬地点・埋葬姿勢・頭位方向・装身具、副葬品の有無と種類、抜歯系統など)を検討することによって、当該遺跡が属する時代の親族・社会構造について考古学的仮説を立て、A02班およびA03班等と連携し、年代測定、炭素・窒素・ストロンチウム同位体分析、DNA分析を行うことによって、その仮説の検証を目指す。

図1 A01〜03班における研究のプロセス

2.2023年度活動業績

山田康弘:班長の山田は、既存の人骨出土資料の考古学的情報を収集し、検討を行っている。今年度は愛知県稲荷山貝塚東大調査地点出土人骨の年代測定を行い、抜歯型式が時期差であるとする説を補強した。本計画研究に関わる研究発表としては以下のものがある。

  • 山田康弘・米田 穣『静岡県浜松市蜆塚貝塚出土人骨の年代測定結果と考古学的考察』第77回日本人類学会大会、於東北大学、2023年
  • 山田康弘『日本列島域における統合生物考古学の提唱』日本進化学会第25回大会、於琉球大学、2023年
  • 山田康弘『中四国地域における縄文社会論の構想』中四国縄文時代文化研究会鳥取大会、於鳥取市国府町コミュニティーセンター、2023年
  • 山田康弘・脇山由基・渡部裕介・覚張隆史・太田博樹・米田 穣・日下宗一郎・小金渕佳江・和久大介『愛知県伊川津貝塚出土人骨における埋葬属性とmtDNA分析結果』日本考古学協会第89回総会研究発表、於東北学院大学、2023年

 また、論文発表としては以下のものがある。

  • 山田康弘・米田 穣(2023)「岩手県蝦島貝塚出土人骨の埋葬属性とmtDNA・年代測定の分析結果からみた縄文墓制の一様相」『国立歴史民俗博物館研究報告』第242集
  • 山田康弘(2023)「縄文晩期渥美半島における親族組織」『何が歴史を動かしたのか 自然史と旧石器・縄文の考古学』第1巻、雄山閣

青野友哉:研究分担者の青野は、北海道有珠モシリ遺跡の発掘調査を行い、全国的に少ない縄文晩期の貝層のブロックサンプルを採取して生業研究に用いるほか、人骨の炭素14年代測定における海洋リザーバー効果の補正に必要な海域差(ΔR)を求めるための分析試料とした。さらに多数合葬・複葬例である18号墓の研究を進め、若い男性が主体を占めること、頭蓋に受傷痕跡・治癒痕跡を持つ個体が複数あること、核DNA分析により兄弟が含まれることを明らかにした。また、手足の指骨の数が少ないことから、他所に一次葬墓があった個体が多いことを指摘できるとともに、少数ながら同一個体の足根骨のまとまりがあることからは18号墓を一次葬墓とし、白骨化後に再配置された個体も含まれていると考えられた。
 本計画研究に直接的に関わる研究発表としては、以下のものがある。

  • T. Aono『Classification of Shell/Bone Beads in the Epi-Jomon Culture and Elucidation of Their Use』14thInternational Council for Archaeozoology Conference,Cairns,Australia,2023
  • 青野友哉『北海南部・東北北部の続縄文文化』北海道考古学会2023年度研究大会、於北海道大学、2023年
  • 青野友哉・高瀬克範・永谷幸人『墓坑内出土の骨・遺物のタフォノミーに関する実験研究』日本動物考古学会第10回大会、於北海道大学総合博物館、2023年
  • 青野友哉・吉村和久・山口晴香・米田 穣・澤田純明・能登征美『北海道有珠周辺遺跡の古代人が利用した天然水のフッ素濃度』日本分析化学会第72年会、於熊本城ホール、2023年

 また、研究論文等としては以下のものがある。

  • 青野友哉(2023)「続縄文文化の評価」『季刊考古学』別冊第42号、雄山閣
  • 青野友哉・永谷幸人・三谷智広(2023)「有珠モシリ遺跡発掘調査概要報告4」『歴史遺産研究』第18号

日高 慎:研究分担者の日高は、東京都小金井市の近年確認された横穴墓と約50年前に確認された横穴墓との間に位置する「どんぐりの森」において、応用地質株式会社に委託して地形測量(2024年2月)とレーダ探査(2024年3月)を行い、2024年度に予定している本調査の準備を進めている。来年度以降、当該地方の横穴墓出土人骨のDNA分析を試み、親族構造等の研究を行う予定でいる。2023年度の研究成果として、2024年春に刊行予定である『東京考古』42における小特集テーマ「後・終末期古墳の埋葬主体と集団構成に関する諸問題」に「古墳時代埋葬人骨の調査・研究の現状と課題」という論文を投稿し、受理されて現在印刷中である。本稿では現在までの古墳時代埋葬人骨に対する考古学研究、形質人類学研究、DNA分析、年代測定などの調査成果を通観したが、特にDNA分析や年代測定は調査事例が少ないので、まずはデータを蓄積していくことが肝要であることを論じた。

  • 日高 慎(2024)「古墳時代の女性被葬者と女性埴輪」『深化する歴史学 史資料からよみとく新たな歴史像』、大月書店
  • 日高 慎(2024)「考古拾遺―古墳時代の親族関係―」『アーキオ・クレイオ』21、東京学芸大学考古学研究室
  • 日高 慎(2024)「古墳時代埋葬人骨の調査・研究の現状と課題」『東京考古』第42(印刷中)

舟橋京子:研究分担者の舟橋は、所属機関である九州大学収蔵の弥生・古墳時代の社会構造に関する研究の下準備として、弥生時代開始期遺跡にみられる集骨・再葬行為の復元および歯冠計測値を用いた親族集団の復元、その他古墳時代親族関係の復元のための打ち合わせおよび本科研プロジェクト他班への研究協力を行った。弥生時代開始期にみられる集骨・再葬行為の復元については、福岡県新町遺跡や雀居遺跡では一次埋葬とは異なる状態での人骨の出土例が報告されており、後者に関しては集骨の可能性が示唆されている。本年度は遺跡における人骨の出土状況の再検討、および出土した人骨そのものの再整理を行い集骨・再葬行為の再検討を行った。今後、雀居遺跡の再検討および同じ前期事例の中ノ浜遺跡を加えて、2024年度前半期には弥生時代開始期に見られる集骨・再葬行為の論文を投稿予定である。
 歯冠計測値を用いた親族関係の推定に関しては、福岡県横隈狐塚遺跡出土人骨を用いて行った。この成果に関しては既に別科研で行っているSr同位体比を用いた他所生育者の推定法の結果と併せて2024年度中に論文化する予定である。
 その他に、古墳時代親族関係復元の予備作業、およびB04班の人骨資料サンプリングに協力をした。また、上述する研究に関する今年度の成果としては、以下のものがある。

  • 舟橋京子(2023)「新町遺跡出土人骨に見られる葬送行為の再検討」『東アジア考古学の新たなる地平』宮本一夫教授退職記念事業会

辻田淳一郎:研究分担者の辻田は、大きく二つの考古学的問題について検討を進めた。一つは、威信財と王権のレガリアをめぐる諸問題についての考古学的検討、もう一つは威信財の授受と親族関係の相互の関係性についての具体的検討、である。
 第一の点については、古代の日本におけるレガリアの出現について、考古学的な成果に基づき検討したものである。レガリアは、一般に王位の表象となる宝器(神器)を指すと考えられているが、別の表現をするならば、王権中枢に限定される形で世代間継承される象徴的器物であるということができる。古代日本のレガリアが、鏡・剣・玉といった古墳時代以前の副葬品として知られる器物と共通することから、それらとレガリアとが直接的に連続するのか、といった点が問題とされてきた。こうした観点から、古墳時代における各種副葬品とその入手・使用・消費のあり方について時期的変遷を検討した。
 第二の点については、古墳時代前期から後期前半までの列島各地の古墳における複数被葬者の埋葬事例から、被葬者同士の関係や副葬品の入手・使用・消費のあり方について、考古学的な観点から検討したものである。人骨が出土している埋葬事例について、考古学的方法と形質人類学的方法・DNA分析などによる方法などを組み合わせて検討することにより、こうした課題が解決されることが期待される。
 上記の研究成果については以下の論文がある。

  • 辻田淳一郎(2023)「ヤマト王権の威信財とレガリア」『古代史をひらく 古代王権』岩波書店