領域代表 山田 康弘
東京都立大学 人文科学研究科
教授

 現在、縄文時代をはじめとする先史時代の考古学は、大きな曲がり角に来ています。それは、従来の考古学的成果が、理化学的な分析結果によって大きく修正される事態が多発していることからも明らかです。今や、考古学的手法のみで過去の実像に迫ることは非常に難しくなってきており、今後先史時代の考古学が発展していくためには、考古学そのものが従来のような文系学問領域からシフトして、新たな学問領域へと生まれ変わる必要があります。そこで本研究領域では、日本において、特に人骨・動植物遺存体などの出土資料を主たる対象として、現在の考古学的方法に、年代測定、同位体分析、ゲノム分析などの自然科学的な手法を織り交ぜた総合的学問領域である integrative bioarchaeology の構築を提唱するものです。

 また、本領域研究は、integrative bioarchaeologyの創成を通じて、新たな日本人形成論を提示し、かつintegrative bioarchaeologyの実践を通じて、文理の枠を超えた国際的にも活躍可能な次世代を担う卓越人材を育成・輩出する試みでもあります。これは「これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導する」という学術変革領域研究の目的と合致するものです。

 我が国は世界的にも稀有な豊富な人骨資料と考古学的研究成果を有しています。しかしながら、日本国内においては、それらを利用した分析は諸外国に比較して立ち後れていると言わざるをえません。そこで、考古学と自然科学を融合させた総合知としての新たな学問的枠組みの創成・構築が必要であり、このようなハイブリッドな研究に対応できる研究者の養成が急務なのです。

 研究環境的に有力な位置にある日本が本研究領域でのイニシアチブを取り、国際的研究を牽引することは、先史人類史研究において重要な意味を持ちます。本領域研究が完遂された暁には、現在の先史考古学における研究方法は一気に大きく改革されることになり、それはまさに「令和の考古学改新」と呼ぶべきものになるはずです。